わたしの想いがとどくように
弥生は胸がズキンとなった。そんなこと、言われたくない。そんなことあるわけないじゃない。悲しくなる。泣くな。まだ大丈夫、大丈夫。弥生は言い聞かせた。美華子だって戸惑っていたんだ。ずっと悩んでいたんだ。自分だけが悲しんでるわけじゃない。

「そんな!馬鹿みたいな話あるわけないでしょう?私たち従姉弟だし、"仕来たり"だってあるし、それに幸奈はずっと美華子が好きだよ。ちゃんと話して見なさい!」

弥生はそう言うと、立ち上がり、伸びをする。すこし怒ったような顔から優しく微笑んだ。美華子はまだ半分くらいしか食べていない。弥生は花壇の華を見ていた。

「みんな、可愛いよね、力強く咲いていて」

「そうだね」

「このガーベラのオレンジ色って、オレンジのムースみたい」

弥生はそう言った。

「でたでた」

美華子は綺麗に箱を包んでいた。

「私、食いしん坊だもの」

弥生は不貞腐れたようにそう言うと、立ち上がった。美華子は食べ終わったようだ。

「取りあえず、話しなさい!幸奈は絶対に言ってくれるから!受け止めるだけが恋じゃないの!自分から行動するのだって恋!」

弥生はそう言うとかっこよく微笑んだ。美華子は少しだけときめいた。前向きにさせてくれる。弥生は凄い。弥生の才能なのかもしれない。消極的ではいけない。幸奈に頼ってばかりじゃいられない。弥生がいうように、行動もしなければ。美華子の顔つきが変わった。弥生はそれを見て優しい顔をした。もう大丈夫だね。心でそう呟いた。



「幸奈くん!屋上に行きませんか?」

美華子は放課後に幸奈にそう言った。幸奈は眼鏡をケースにしまっていた。

「いいよ」

幸奈は鞄を持って立ち上がった。美華子は隣りを歩く。2人とも目立つので、周りが見てくる。

「あんまり気にするな」

幸奈が優しくそう言った。美華子は、そう言われると少し笑った。屋上は誰もいなかった。幸奈が鞄を置いてその場で座ると、美華子も隣りに正座した。

「足崩せ、痛いだろ?」

「はい」

美華子は足を崩した。幸奈は空を見ている。いい天気だ。気持ちいい。幸奈は寝そべって目を積むって深呼吸をする。中学のときから、彼は空を見るのが好きだった。目を閉じる表情も、美華子は好きだった。

「話ってなに?」

「あ、あの…」

美華子は少し赤くなった。駄目だ。言えない。しかし、弥生が言ってくれたことを思い出した。そして、ぐっと手を握る。

「…不安なんです。私で本当にいいのかなって…幸奈くんの周りは綺麗な子が多いし…弥生だっているし」

幸奈は、空を見上げたまま、じっと考えていた。初夏の風を感じていた。しばらくしてから、口を開ける。

「俺は、気持ちを表すの凄い苦手だから、美華子がそう思うのも無理ないよな」

「…はぁ」

「言わなくちゃ伝わらない気持ちは、しっかり伝えないと駄目だよな」

「…」

幸奈は、美華子を真っ直ぐ見た。綺麗で男らしい顔。美華子は目線を逸らしそうになると、幸奈は無理矢理両手で美華子の頬を触り、そらさせなかった。

「俺は、美華子が誰よりも好きだ。そんなに気になるなら、確かめろよ。お前の手でさ」

幸奈はそう言うと、美華子の手を自分の左胸にあてた。凄くドキドキしている。なんだ、自分と一緒だ。美華子は笑うと、幸奈は真っ赤になった。腕を手にあてていた。

「私も、大好きです!」

美華子はそう言うと、幸奈に抱き付いた。
嬉しかった。弥生の言うとおりだった。良かった。話せてよかった。美華子は本当にそう思った。
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