水泳のお時間
衝動的に女子トイレへと駆け込んだわたしは水道の蛇口を閉めると、大きくため息をはいた。


「はぁ…」


…やっぱりああいう話はまだ慣れない。


さっきはつい恥ずかしくて、キスをしたことがないって、とっさに頷いてしまったけれど


本当は、心当たりが無いわけじゃない…。


それもつい最近、それは瀬戸くんに水泳を教えてもらえることになった初日の日に。


あの時はいきなり瀬戸くんに体を触られて、ビックリしていたら好きだと言われて、それで……


「~~~っ!」


そこまで思い出したところで、わたしはとたんに恥ずかしくなってしまい、フルフルと首を横にふった。

そしてそのまま震える手で、そっと唇に触れてみる。


…初めてのキスは、ただただ突然の出来事で、思い出すのも恥ずかしくて


わざとその話に触れないように、考えないようにしていたけれど。

でも本当はちゃんと覚えてる。あのときの光景も感触も全部。


確かにわたしはあの日、生まれて初めてキスというものを経験した。


ねぇ瀬戸くん。

瀬戸くんはきっと今まで色んな女のコとそういう事、いっぱいしてきたと思うけれど


それでもわたしにとってファーストキスの相手は、確かに瀬戸くんだったんだよ。
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