水泳のお時間
「……」


今日は車の音も人の声も聞こえない、二人きりの帰り道。


憧れの瀬戸くんにもう一度送ってもらえて、本当はとても嬉しい。

すごく、すっごく嬉しいはずのに


でも、わたしの心はやっぱり晴れなくて…


「元気ないね」


そのまま俯いて歩いていたら、やっぱり瀬戸くんに指摘されてしまった。

その言葉にわたしは一度顔をあげたけれど

すぐにまた俯いて、両手をギュッとにぎる。


「あの…」

「ん?」

「ど、どうでしたか?その…い、息の練習…」


顔を真っ赤にして訊いたわたしの言葉に、瀬戸くんが一瞬こっちを見た気がした。


だけどわたしはあれからずっと俯いたままで

目を合わせられずにいたら、隣を歩く瀬戸くんの口からこんな言葉が返ってきた。


「うん。上手くはなかったかな。…下手だったね」

「!ご、ごめんなさ…」


やっぱり…。


わたし、今日も瀬戸くんに言われた通りちゃんと出来なかったんだ…

自分では一生懸命しているつもりなのに、どうしてわたしはいつも空回りしてしまうんだろう。


一日でも早く成長したわたしを、瀬戸くんに見てもらいたいって、そう思ってるのに…。
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