水泳のお時間
「!瀬戸く…」

「いいよ。おいで」


そう言って、優しげな指先で頭を撫でてくれた瀬戸くんに、わたしは胸が高鳴る。


とっさに顔をあげると、そんなわたしに向かって瀬戸くんは目を細めながら優しく微笑み返してくれたんだ。


…ほ、本当に?

どうしよう。嬉しい…!


あまりの嬉しさについ涙が出そうになっていたら、瀬戸くんの口からこんな言葉が聞こえた。


「それと、明日はいつもより帰りが遅くなるって、親御さんに伝えといて」

「?あの…」

「今日みたいにまた電話が掛かってきたら練習できないだろ?」

「!あっ…は、はい…っ」


瀬戸くんの言葉に一瞬ポカンとしてしまったけれど、すぐに意味を理解したわたしは途端に恥ずかしくなってしまう。


あの時の着信、やっぱり気づかれてたんだ。


申し訳ない気持ちと恥ずかしい気持ちで、思わず顔がカーッと赤くなる。


そのまま体を縮こませてしまったわたしに、瀬戸くんはフッと微笑んだ。


「まったく、しょうがないな桐谷は。せっかちで忘れんぼうな上に、うっかりだもんな」

「あ…う…」

「いいよ。その分明日はもっと…ちゃんと教えてあげるから」

「あ、は…はい」


瀬戸くんの言葉に、わたしは思わず反応してしまう。


もっと、ちゃんと…。


今日の練習だけでもすごく緊張してしまったのに

それ以上のことを、明日は教わるんだ。
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