水泳のお時間
「知鶴~今日この後どっか遊んで帰ろ!」

「えっ!…あっ、その、実は今日も用事が…」

「えーまたぁ?」


翌日の放課後。


マキちゃんからの誘いを、わたしはまた断ってしまった。


恥ずかしくて自分からはなかなか誘えない分

誘ってもらえたらやっぱり嬉しいし、もちろん私だってマキちゃんたちと遊びに行きたい。


だけど今は…


「ご、ごめんね!ほんとにごめん…っ…来月になったらちゃんと埋め合わせするから…っ」


ほっぺたを膨らましてつまらなそうな顔を浮かべるマキちゃんに、何度も何度も心の中で謝りながら

わたしは逃げるように教室を飛び出すと、急いで階段をかけ下りた。


そしてそのまま一階の床に足を付けたわたしの目に映ったのは

靴箱の壁に寄りかかりながら、わたしを待っている瀬戸くんで…。


「せ、瀬戸くん…っ!」


思わずそこから走り出して、気がつくと自分から声を掛けていたわたしに

瀬戸くんはこっちを振り向いたかと思うと、フッと微笑んだ。


「そんな急いで来なくてもいいのに」

「ご、ごめんなさ…でも…」


それでも早く、瀬戸くんに会いたかったから…。


だけどそんな事言えるはずもなくて、つい黙ってしまったわたしに、瀬戸くんは静かに目を細めた。


「行こうか」

「は、はい」


そのまま容易く肩を抱かれてしまい、わたしの心臓がドキリとする。


…いくらマキちゃんでも、やっぱり言えない。


練習のためとは言え、こんなわたしなんかが、あの瀬戸くんと放課後ないしょで二人で会ってるなんて

そんなこと誰かに知られたりでもしたら…。


きっとそれを良く思わない女の子もいるだろうし、なにより瀬戸くんに対して申しわけない。


こんな何の取り柄もない私なんかと噂になってしまったら、それこそ失礼だし


瀬戸くんと釣り合える存在になりたいと自惚れるほど

そこまで身の程知らずじゃない。


でもあと数週間だけ。あと数週間だけだから…


…だからせめて、その時が来るまでは、わたしたちをそっとしておいて下さい。
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