水泳のお時間
「着いたばかりだし、少し休む?」

「あ、はい」


瀬戸くんの部屋へ足を踏み入れるのは、今日で二回目。


だから今日こそはきっと大丈夫って、自分にそう言い聞かせていたのに…やっぱり緊張してしまって。


いつも以上に口数の少なくなってしまったわたしに

「くつろいでていいよ」と瀬戸くんは言ってくれたけれど。


椅子は一つしかなかったし、だからと言ってベッドに腰かけるのはやっぱり…気が引けてしまったから。


結局立ちすくんだまま一人ソワソワしていたら

ふと後ろで聞こえた鍵を閉めた音に、わたしの体は一瞬で硬直してしまった。


おそるおそる後ろを振り返ると、瀬戸くんはいつもの表情を向けて言う。


「親御さんにはちゃんと言ってきた?遅くなるって」

「あ…は、はい」

「そう。それなら良かった」


わたしの言葉に、瀬戸くんは一瞬微笑んだかと思うと、こっちへ近づいてきた。


今日は洋楽も何も聴こえない、二人きりの部屋。


聞こえてくるのは瀬戸くんの床を歩く足音と、自分の心臓の音だけで。余計に意識してしまう。


どうしよう。心臓の音、聞こえてないかな…。


「…緊張してる?」


そんな事を心配していたら、ふいに瀬戸くんに顔を覗きこまれてしまった。

慌てたわたしは、とっさにフルフルと首を横にふる。


「そ、そんなこと…」

「ない?」

「ひゃっ…!」


その瞬間、瀬戸くんの骨ばった指がわたしの左胸に触れて

わたしは思わず大きな悲鳴をあげた。
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