水泳のお時間
「静かに」

「…っ」


思わず出してしまったその声は、瀬戸くんの指によって優しく抑えられてしまう。


だけどもう片方の指は今も、わたしの左胸を触ったままで…。


突然その手をグッと押し当てられた瞬間、わたしはとっさに両目をつぶった。


「…否定する割には、心臓の音がすごいけど」

「~~~っ!」


まるでわたしの心理を突くように、瀬戸くんが呟いた。


その瞬間、瀬戸くんに自分の全てを見透かされてしまったような気がして、わたしの顔は
一気に赤面してしまう。


…どんなに否定しようとしても、隠そうとしても。


制服越しからでも分かってしまうその心臓の音は

わたしが今どれだけ緊張しているかという事を、自然と瀬戸くんに知らせてしまっていた、から…。


「…っ…」


何ひとつ言い訳できなくて、恥ずかしさからとっさに俯いてしまった私。

するとそんなわたしの耳に、瀬戸くんがわざと唇を近づけてくる。


「桐谷は忘れんぼうでせっかちな上、うそつきなんだな」

「!ご、ごめんなさ…」

「いや、謝る必要はないよ。今ちょうど泳いでいる時と同じくらいの心拍数だから、かえって手間が省けた」

「え…?」


瀬戸くんの言葉に、わたしはとっさに目を開く。


するとそんなわたしを見て、瀬戸くんは甘く微笑んだ。
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