水泳のお時間
「んっ…」


とつぜん顎をつかまれたかと思うと、少しずつ近づいてくる瀬戸くんの顔…。


そのまま優しく塞がれてしまった唇は、わたしの体を熱くすると同時に

瀬戸くんの“水泳指導”が始まったことをも意味していて。


割り込むように入ってきたその生温かいものに

わたしはとっさに目を押しつぶると、瀬戸くんの制服の裾をギュッ…と握った。


「…さっきよりも心臓の音が速くなってるな」

「っ!」

「それに息も切れてる。泳いでるわけでもないのに…何でかな」


本当は理由を知っているのに、わざとこちらに答えさせるような瀬戸くんの言葉に、思わずカァッと顔が熱くなる。


確かに瀬戸くんの言うとおり…わたしの顔はまるで蒸気したようにすっかり赤くなって、息は切れだしていた。


だけど今そうなっている理由なんて

わたしには分かるわけも…答えられるはずも無くて


恥ずかしくてつい泣き出してしまいそうになっていたら、瀬戸くんはフッと微笑んだ。


「桐谷は、困るとそうやってすぐ泣いちゃうんだ。カワイイね」

「~~~っ」

「…ほら、そんな難しく考えないで?桐谷は昨日、俺に教わった通りやればいいから」

「は、はい…っ」


きっと瀬戸くんは、こうする事でわたしが自然と成長することを知っているんだと思う。


指導中の時は決まって、瀬戸くんはあんな風にわざと私にイジワル言ったり、したりする。


単純なわたしはそのたびに落ち込んでしまって

すぐにまた泣いてしまいそうになるけれど。


すぐに瀬戸くんが優しい言葉をかけてくれるから

ついまた期待して、がんばろうって思ってしまう。


「目、つぶって?」


その言葉にコクンとうなずき返すと、すぐに瀬戸くんの唇が重なってきた。


昨日、わたしが瀬戸くんに教わったこと…。


息は吸いすぎないくらいに小さく吸って、息はちゃんと吐く。


瀬戸くんの言葉に、わたしは戸惑いながらも昨日教わったことを思い返し

一生懸命指導についていこうとする。


そのまま必死になっていたら、ふいに瀬戸くんにやわらかいところを掴まれてしまい、体がビクっと震えた。
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