水泳のお時間
…どれくらいの時間が過ぎたのか、もう分からない。


ただひたすら、昨日教わったことを思い出しながら必死に瀬戸くんの指導を受けていたら

わたしの体はいつの間にかベッドに寝かされていて


背中を支えてくれていた瀬戸くんの指先が、ふいに腰の方まで伸びてきたかと思うと、突然その手を離された。


…?

瀬戸くん…?


「せ、瀬戸く…?」


そのまま体ごと離されてしまい、いきなり自由にされてしまったわたしは慌てて上体を起こす。

するとそんなわたしに、瀬戸くんは顔を背けながらそっけない声で言った。


「もういいよ。息の指導はおしまい」

「え…っ!あ…は、はい…」


何の前触れもなく突然終わらせられてしまった指導に、わたしは拍子抜けしてしまう。


瀬戸くん、そんな…。どうして…?

まだ、時間はあるのに…。

ショックで思わずシュンとしてしまったわたしに、瀬戸くんはフッと微笑んだ。


「まだしたい?それとも、桐谷はそれだけじゃ物足りないのかな」

「!そ、そんなこと、ないですっ…!」


瀬戸くんの言葉に、わたしは慌てて首をブンブンと横に振った。


そのまま真っ赤になってしまったわたしを見て

瀬戸くんはまたいつものように目を細めて笑っている。


…わたし、また言うとおり出来なかったんだ…。


この時、どうしていきなり瀬戸くんが途中で指導を止めてしまったのか分からなくて。


ただこっちの顔も見てくれないまま、そっけなさそうに言われたから


そうさせてしまったのはきっと、私が今日も教えられたとおりに出来なくて、呆れさせてしまったせいなんだと思った。
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