水泳のお時間

「―――!!きゃあっ…瀬戸く…い、痛い…っ!」

「痛い?じゃあもっと力抜いて」

「あっ…そ、そんな…むり、むりですっ…」

「むりじゃないよ。ほら、ちゃんと息を吐いて」


イヤイヤと首を振って痛がるわたしの言葉を無視して、瀬戸くんは後ろから容赦なく押し上げてくる。


そのたびにわたしは何度も悲鳴をあげながら

今まで感じたこともないような激痛にギュッと両目をつぶった。


「い、痛い……っ」

「まったく、しょうがないな桐谷は。それならなおさら痛みに慣れさせないと」


痛がるわたしの気持ちとは裏腹に、瀬戸くんはさらに指の力を強めたかと思うと

これでもかと言うくらい、限界までわたしの体を折り曲げようとしてくる。




…あれから床にしゃがみこんだわたしは、そのまま瀬戸くんに膝をまっすぐ伸ばすよう促され

何も分からずにそのとおり脚を伸ばしてみたのだけれど。


なぜだか自分の爪先まで自分の両手で持つよう指示されてしまい

その体勢のままポカンとしていたら、突然後ろから瀬戸くんに背中をグッと押さえ付けられてしまった。


「だめ…い、痛い…」

「痛い?そう言う割にはもっと前に行けそうだけど」


そして今、この悲惨な状況…。


自分の膝に顔がくっつきそうになりながら、わたしは今にも溢れそうな涙をこらえる。


それでも瀬戸くんはグイグイとわたしの背中を押してきて…


やっ…!痛い…痛いよっ


わたし、水泳の練習がこんな痛いものだったなんて知らなかった。…考えもしなかった。


だって瀬戸くんが言っていた…もっとちゃんと教えてくれる事ってまさか、柔軟のことだったなんて…!
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