水泳のお時間
「~~~っ!瀬戸くん、やぁっ…!い、痛いっ…」

「これでも痛い?でも体が硬いとそれだけで事故を引き起こしやすくなる。今から体は柔らかくしておかないと」


そう言って、瀬戸くんはさっきよりも押す力を緩めてくれたけれど

一向に痛みは引かなくて。


優しく体を折り曲げられるたび、わたしの口からは悲痛な声が洩れ

そしてとうとう泣き出してしまったわたしに、瀬戸くんはようやく手を離してくれた。


「ごめんね、そんなに痛かった?…それなら練習はここで止めにしようか」

「!!だ、だいじょうぶです…っ!…つ、続けてください…もっと、教えてください…!」

「そう?…でもそんなカワイイこと言ったら、俺は桐谷にもっと痛いことするかもしれないよ。いいの?」

「い、いい、です…っ!それでもガマン、しますから…!」


わたしの返事に、瀬戸くんは目を細めて微笑んだ。


きっと…、瀬戸くんは初めから分かってるんだと思う。

わたしが、どれだけ瀬戸くんを好きで、そしてどれだけ抜け出せなくなってしまっているか、全部分かってる。

だからわたしは絶対瀬戸くんに逆らえないし、逃げ出したり出来ないって事も。

きっと全部、初めから気づいてる…。


「ガマン、ね。桐谷もここ数日でずいぶん大胆なことを言えるようになったな」

「…っ…」


だってどんな辛い事をされたとしても、わたしは瀬戸くんと一緒にいられないことの方がもっと辛い、から。


でも、わたしが耐えることで瀬戸といられる時間が増えるのなら。


あと少し、わたしが頑張ることでいつか泳げるようになれるのなら。

この痛みだって…苦痛じゃない。
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