水泳のお時間
「すげー驚きよう」

「えっ?あっ…」


振り向いたとたん大きな声を出してしまったわたしに、瀬戸くんは肩を揺らしながら笑った。


わたしを見おろしてくれるその優しい眼差し。柔らかな物腰。


どんな時も瀬戸くんは堂々としていて落ち着きがあって


わたしと同じ高校生とはまるで思えないその大人びた姿勢に、毎回胸がドキドキしてしまう。


「えっと、瀬戸くん…」

「ん?」

「あのっ、わたし、やっとプール入れます!だから今日からまた、瀬戸くんに水泳…教えて欲しいんです!」


久しぶりに泳げるという喜びと、二日ぶりに瀬戸くんと会った緊張とで、なんだか言葉がギクシャクしてしまう。


それでも言葉を繋げようと必死になるわたしに向かって

瀬戸くんは優しく微笑み返してくれた。


「そっか。それじゃあ今日の放課後、いつもの場所で待ってる」

「は、はい」

「…教室、行かないの?」


上履きに履き替えたはいいけれど、いつになってもここから歩き出そうとしないわたしに、瀬戸くんが顔を傾けてきた。


その質問に、わたしは一瞬考えたあと、早口でまくしたてるように答えた。


「あ、えっと、ちょっと職員室に用事があって!だから、瀬戸くんは先に教室行っててください!」

「ふーん。体育の成績が悪くてとうとう担任に呼び出しでもくらった?」

「ち、違いますっ」


瀬戸くんの言葉に、わたしは慌てて否定する。

そのままつい顔が真っ赤になってしまったわたしを見て、瀬戸くんは笑いながら階段をあがっていった。
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