水泳のお時間
瀬戸くんは見えなくなったのを確認すると、わたしは小さく息を落とした。


「……」


職員室に用事なんて、本当はうそ…。


このまま瀬戸くんと一緒に教室まで歩いていけたらどんなに幸せだろう。

でも今のわたしにはそんな自信も、勇気もないから。

やっぱり…周りの視線とか噂とか、気にしてしまう。


それに、わたしなんかと一緒にいるところを見られたら

瀬戸くんに悪いんじゃないかって、気を遣ってしまう気持ちも…あるから。


「…っ」


その瞬間、わたしはとっさにギュッと握った両手を胸に当てて、ポツリとつぶやいた。


「瀬戸くん…」


わたしは…人より優れてるものなんて持って無いし、自慢できることなんて何一つないけれど。

瀬戸くんを好きだってこの気持ちだけは、ウソじゃない。

それだけは胸を張って言えるんです。


今までは自分は何をやってもダメだって決め付けていたけれど、そんな事はないんだって分かったから。


頑張れば変われるし、出来るようになるんだって、知ったから。


だからもし、もしも本当に泳げるようになったら、自分に自信を持ってみてもいいですか…?


そしたら、わたし…


「きゃっ…!」


その時、突然後ろからドン!と誰かに背中を突き飛ばされた気がして、わたしは思わず床に倒れこんだ。
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