水泳のお時間


「――忘れ物?」


空の色もだいぶ暗くなり、普段ならこの時間には水泳の練習を切り上げて

瀬戸くんと一緒に学校を出るのだけれど。


クツ箱の一階まで階段を下りたところで突然、

“忘れ物をした”と…そう打ち明けた私に、前を歩いていた瀬戸くんがふと足を止めてこっちを見た。


「は、はい。そういえば宿題だったプリント…教室に忘れて来ちゃったみたいです」

「いいよ。取ってきて。ここで待ってるから」

「!えっと、あ、あぁの、でもそのプリント、これから先生に渡さなきゃいけないし、遅くなると悪いのでっ…瀬戸くんは先に、帰ってて下さい!」


わたしはしどろもどろにながらそう言うと、まるで瀬戸くんから逃げるように背を向け、階段をかけあがった。
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