水泳のお時間
その日の放課後。

この時間になると外は今にも雨が降り出しそうで


いつものように更衣室へ駆け込んできたわたしは、急いでビーチバッグを開く。

そのまま水泳用具を取り出そうと、中に手を入れた…その時だった。

突然目に飛び込んできた信じられない光景に、わたしは目を見ひらく。


「…っ…!」


ひどい。どうして?


誰がこんな事を…?


「そんな……」


思わず目を疑うようなその光景に、何が起こったのか分からなかった。


それでも今わたしの手に握られているのは、紛れもなくズタズタに引き裂かれてしまった水着で。


その瞬間、わたしの脳裏に…記憶に、

昨日の朝…誰かに体を押し飛ばされたことが頭をよぎって。


わたしは押し寄せる不安を隠しきれずに、引き裂かれてしまった水着を抱え込むと、

震える指でギュッ…とにぎりしめた。


やっぱり…わたしの思い過ごしじゃない。

これは見えない誰かが、わたしに対して向けた…誰かによる、明らかな悪意…。


「……」


…どうしよう。これじゃ泳げない。

それに…


「あれ…?」


しばらくの間途方に暮れたあと、わたしはふとある違和感に気づいた。


あわててバッグの中をゴソゴソと探したり、下に落としていないか周囲を見回すけれど、やっぱり見つからない。


どうして?今朝、確かにバッグに入れたのに。


眠る時は決まってすぐ傍に置いて、いつも肌身離さず大事に持っていた…とても大切な人からもらった大事な物が、今は見つからないなんて…


「そんな…なんで…?大事な物なのに…どうしよう…っ」


ゴーグルが、無い。


瀬戸くんからもらった大事なゴーグルが…なくなってる。
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