水泳のお時間
「え…?」


痕…?


瀬戸くんから言われた言葉にわたしは首をかしげる。

それでも瀬戸くんの視線は一線に向けられたままで…。


恐る恐る顔を自分の胸元へ下ろしてみると

そこにくっきりと浮かび上がっていたのは、赤いキスマーク…。


「!!あっ……」


その瞬間、ふいに小野くんの事が頭をよぎって。

思わず顔がカァッ!と熱くなったと同時に、わたしはすぐさま両手でその痕を隠した。


「えっと、これは…そ、その…」

「……」

「か、蚊です。蚊に、刺されたんです」


とっさに笑いごまかしたけれど、瀬戸くんは何も言ってくれなくて。


無言でこっちに近づいてくる瀬戸くんに、思わず足が引けてしまい

気がつくとわたしの体はプールの端まで追いつめられてしまった。


「あ、あの…」

「誰?」

「……」

「誰に付けられた?」


その瞬間、頭の後ろで瀬戸くんが壁に手を当てる音がした。


わたしの体を覆って隠す、瀬戸くんの大きくて高い影。


プールの壁と瀬戸くんに挟まれてしまったわたしは、もう逃げられない…。
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