水泳のお時間
「それで?小野にどんな事をされたか、俺に話して」

「…きょ、教室で探し物をしてたら、小野くんが来たんです。それで、押し倒されて…」

「うん。それで…?」

「助けを呼ぼうとしたら腕を押さえられて、…それから…」


気がつくと、小野くんの顔が私の胸の方まで下りていて、

グッときつく吸い上げられるような痛みが走った。


その痛みが何なのか気づいた時には、体に力が入らなくて。まるで凍りついたみたいに動けなくなってた。

そう説明している間にも、さっきの記憶がよみがってきて、

わたしは震えあがる体をギュッと抑える。


そのまま堪えていたら、瀬戸くんがさり気なく肩に手を添えてくれた。


「あとは?他に何をされた?」

「さ、されてないです…っ、途中で先生たちが廊下を通る足音が聞こえた、から…っ」


その音に一瞬、小野くんが気を取られているのが分かって、

その隙に小野くんの手を振り解いて立ち上がり、無我夢中で教室を逃げ出してきた。


だから幸い、大きなケガも、トラウマになってしまうような事もされていない。

だけど…


「でも実は私…瀬戸くんからもらったゴーグルを、…無くしてしまったんです…」

「……」

「ごめんなさい…っ、せっかく、せっかく瀬戸くんがくれた、大事なものだったのに…っ」


その瞬間、自分の不甲斐なさに、涙が出た。

きっと今もあのゴーグルは、小野くんが持ってる。

絶対、返してもらわなくちゃ。


わたしにとって、瀬戸くんがくれたあのゴーグルは、どんな物にも代えられない大切な物だから…!
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