水泳のお時間
背泳ぎの特徴は、ごく一般的に使われているクロールや平泳ぎとは違い、

唯一息をしたまま進むことができる種目。


つまり、水の中を潜るのが苦手なわたしにとって、

これが一番適していて、泳ぐことに対しての不安感も少ない。


そしてもしもこれが成功したら、泳ぐことに対するハクがつくかもしれないと、

瀬戸くんはそう話してくれた。


「まずは背浮きの練習から始めようか。一度やってみて」

「は、はい…っ」


とにかく、がんばらなきゃ。


その言葉で励まされたわたしは、大きく返事をする。


そして両手でしっかりとプールのふちを握ると、

底に付けていた足裏をプールの壁へ引き寄せ、ギュッと両膝を折り曲げた。


「~~~~っ」


…えいっ!


そして次の瞬間、わたしは引き寄せていた足をめいっぱい蹴り上げ、

勢いまかせに水面へ仰向けになった。


その反動で、体が一瞬水に浮いたように思ったのもつかの間、すぐに下へ沈みそうになり


思わずジタバタと手足をバタつかせ、もがこうとしたら、即座に瀬戸くんの手が体の後ろに入ってきた。


「…っ!せ、瀬戸く…!」

「大丈夫。最初は沈まないように俺が支えててあげるから。桐谷は浮く事だけに集中して」


そう言って、わたしの背中と膝裏を腕で器用に抱えあげた瀬戸くんに、

思わず心臓がドキンと音を鳴らした。


!?

う、うそっ?

ど、どうしよう!

瀬戸くんの手が、手が触れてるよ…!
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