水泳のお時間
校舎を出ると、外はいっそう暗くなり、雨がポツポツと降り始めていた。


それを見たわたしは、持っていた折りたたみ傘をカバンの中から取り出す。


そしてそれを空にかざして開こうとしたそのとき、

瀬戸くんがまるでそれをさえぎる様に自分の傘を差して、その下へわたしも一緒に入れてくれた。


突然のことに戸惑っていると、そのまま瀬戸くんに傘をしまうよう促されてしまい


わたしは持っていた折りたたみをあわててカバンの中に戻すと、

ファスナーも最後まできちんと閉めることもできないまま、遠慮がちにその横に立つ。


そして瀬戸くんの足元を追うように、わたしも歩き出した。




「……」


瀬戸くんとの、相合傘。

ほんとうは嬉しい。嬉しいけど

だけどわたしはどうしてもこの顔をあげられなくて。


気の利いた話さえ切り出すこともできず、傘に雨がぶつかる音だけが、わたしたちの上にポツポツと響く。


視線を下に落としたきり、ただうつむいて歩くわたしに、瀬戸くんも黙って歩きながら…


それでも雨のしずくに濡れてしまわぬように、

瀬戸くんが片方の手で、わたしの肩を抱き寄せて歩いてくれる。


近づいた距離に、しだいに大きくなる胸の鼓動と、そして雨音。

だけど本当は今も、あのときの瀬戸くんの言葉ばかりが心に引っかかっていて

こらきれず、わたしは思い切って口を開いた。


「瀬戸くん。あ、の…」

「ん?」

「その……」


どうして…?


瀬戸くんはどうしてさっき小野くんに、いいよって、言ったの?


それは、わたしのため?ゴーグルのため?

それともやっぱり、こんなわたしじゃ、瀬戸くんの手に負えなかった…?


「あ、えっと明日は瀬戸くん以外の人に水泳を教わるから、その、ちょっと…こ、怖いなって、思って……」


でも、瀬戸くんの本当の気持ちを知るのが怖くて、聞けなかった。


だから代わりに、勇気を出して、わたしの本当の気持ちを言葉にしてみる。


すると隣を歩いていた瀬戸くんがふと足を止め、ポツリと口を開いた。
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