水泳のお時間
小野くんの言葉に、わたしの心臓がドクンって音を立てた。


そんな…瀬戸くんの見える前で教える?

まさか瀬戸くんが見ている、この場所で…?


どうしてっ?


そう言いたくて、とっさに困った顔を浮かべて動揺するわたしに、

小野くんはわざと気づかないフリをするように、ニッと笑ってみせた。


「そんな困ったような顔されてもさぁ。だって桐谷さん、さっきから瀬戸のことが気になってしょーがないみたいだし?望み通りにしてやったまでだよ」


小野くんはそう言うと、わたしの肩をつかんで、わざと瀬戸くんが見えるように体を向けさせる。


そしてそのまま、わたしのお腹をプールの壁に押しつけると、後ろからつぶやいた。


「それにほら、俺の言うこと聞かないと、ゴーグル返してやんないよ?」

「……っ」

「分かったら、早く足動かせよ」


瀬戸くんが見ている前で、小野くんにこんなことを言われるのはとても悲しくて、泣きそうになったけど


小野くんに言われたとおり、わたしは腰を浮かせると、両足を水中でゆるゆると上下に動かした。


「そんなのろのろ動かしてたら、進むもんも進まねーって。大体、全然浮いてねーし、やる気あんの?」

「きゃっ…?!」


すると突然

小野くんに膝をつかまれたかと思うと水面上まで持ち上げられてしまい、わたしは悲鳴をあげる。


そのひょうしに、プールのふちにしがみ付いていた手を離しそうになって、

思わず顔を上げそうになったけど、間一髪、あわててそれを食い止める。
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