水泳のお時間
「イヤっ……!」
こんな風にされてるところ、瀬戸くんに見られたくない…っ
思わず顔がカァッと熱くなったわたしはとっさに小野くんの手をふりはらい、顔を背ける。
そして少しもまともに泳ぐことさえ出来ないまま、
プールの床にあっけなく足をついて立ち止まってしまったわたしに、小野くんは呆れたように口を開いた。
「なんだよ。瀬戸に個人指導されてるって言うから、どれだけ泳げるようになったのかと思えば…全然じゃん。瀬戸って教える才能ないんじゃねーの?」
瀬戸くんに聞こえるように、小野くんがわざと強調して言う。
小野くんの言葉に、わたしはうつむいたまま、精一杯首を横にふった。
ちがう。小野くん、ちがう、よ…。
瀬戸くんのせいじゃない。
だって瀬戸くんは、ちゃんとわたしに一番見合った教え方を考えて、指導してくれる。
それでもまともに一人の力で潜って泳ぐことも、水に浮くさえ出来ないのは、
やっぱりわたしが周りより劣ってて、へただから…。
瀬戸くんや小野くんならすぐに出来るはずのことも、
わたしは人一倍時間がかかってしまうから…。
なのにその責任を瀬戸くんにすり替えて、けなそうとするのだけはしないでほしい……。
「つーか、水泳の練習とか表向きまじめな事言ってるけど、実際はここで瀬戸に違う意味での指導されてたんじゃねーの?」
「…っ…!」
「そんなオイシイこと、よくもまぁ考えたよな瀬戸も。全然思いつかなかったよ」
もうやめて
瀬戸くんが見ている前で、それ以上言わないで…!
これ以上、瀬戸くんのことを小野くんに言われるのは耐えられなくて、
涙が出そうになったわたしは急いで背を向くと、瀬戸くんが見えない反対側を、勢いのまま走って泳ぎだした。
そのまま必死に腕をかいて、
何とか向こう側まで泳ぎきろうと水中で一人もがくわたしに、小野くんが後ろから笑う。