水泳のお時間
「――桐谷さん、ちょっといい?」


瀬戸くんが付けてくれた赤い印に、ブラウス越しからそっと指で触れながら、

思わず胸がドキドキしてしまっていると、突然後ろから声をかけられた。


驚いたわたしは慌てて、ブラウスのボタンをかき集めて止め、胸元をおさえながら振り向く。


するとそこに立っていたのは、他クラスの女の子たち…。


「?えっと…」

「ちょっと話あんだけど。裏庭来れるよね?もちろん一人で」


わたしの言葉をさえぎって、五人の中にいる一人がどこか強引に一歩踏み出して言った。


そして腕を組みながら、下からまるで睨まれるように覗き込まれてしまい、

わたしはとっさに言いかけた言葉をゴクンとのみこむ。


その状況に、隣にいるマキちゃんやアヤちゃんたちもビックリしているのか、

目を丸くさせながら顔を見合わせていた。


「いいよね?」


黙っているわたしに追い討ちをかけるように、もう一人の女の子がこっちに詰めよって言った。


…クラスは違うけど、

体育の時間帯はわたしたちのクラスと合同で授業を受けているから、お互い顔や名前ならきっと知っているはず。


でも遠くからでも目立って見える髪色や派手な雰囲気が、わたしにはどうしても近寄りがたく感じてしまって、

今まで自分から話しかけたことも、話しかけられたこともない。

だから、こんな風に突然声をかけられた事なんて初めてだったから、びっくりして…


それでも、あきらかにこちらを威圧するようなその物腰や鋭い目つきから、

あまり良くない話だというのは、こんなわたしでもすぐに分かってしまった。


…もしかしたら一昨日、水着を破られたことと、何か関係があるのかもしれない。

そう予感しつつも、わたしはただコクンとうなずき返し、ついて行くしかなかった。
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