水泳のお時間
わたしの言葉に、目の前の女の子がおもむろに眉を押し曲げた。


「はっ?じゃあ放課後瀬戸くんに毎日水泳教わってることについてはどう説明するわけ?瀬戸くんと桐谷さんが一緒に帰ってんのだって何人も見てんだよ!」

「それとも何?彼女でもないくせに瀬戸くんに引っ付いてんの?ずうずうしんだよっ」

「この身の程知らず!」

「せっかく水着着れないようにしてやったのに、いいかげん懲りろよ!」


わたしが否定すると、一人の女の子がしびれを切らしたように声を荒げた。

その言葉を筆頭に、他の女の子たちもわたしに向かって次々と罵声を浴びせる。


…やっぱりわたしに嫌がらせをしたのは、この人たちだったんだ。


ここに来る前から何となく気づいていても、やっぱり面と向かって言われると、

グッと突き刺さるものがある。


だけど何ひとつ反論できなくて、わたしが黙っていると、

目の前の女の子が目に涙を溜めながら、震える声ではき捨てた。


「自分は泳げませんとかウソまでついて、瀬戸くんに近づこうとするなんて最低」

「…!」


瀬戸くんは女の子みんなの憧れだから―――


周りからそんな風に言われたり、思われたりすることは、仕方ないと思ってた。


でもわたしは一度だって泳げないことを口実にしたり、利用した事なんてない。


友達に打ち明けることも出来ないくらい、自分ではこんなに悩んでいる事も、

他の人からはそんな風に見られているんだと思ったら悲しくて、涙が出そうになって。


気がつくと必死に首を横に振って、精一杯の抵抗をしている自分がいた。


「ち、ちがうっ…ウソついてるわけじゃないっ」

「言い訳してんじゃねーよ!なんなら一生泳げなくしてやってもいいんだよっ!」


その瞬間、目の前の女の子が足元に落ちていた木の棒をつかんで上に振り上げる。


そしてわたしの体めがけてその棒を振り下ろし、とっさに目を押し瞑った。
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