水泳のお時間
「知鶴が昔から水泳苦手だったのは知ってたけど……。もしかして中学のとき水泳の授業で溺れたこと…ほんとはずっと、引きずってた?」

「……」


マキちゃんの言葉に、わたしはすぐに答えることができなかった。


過去のトラウマを思い出し、とっさに俯いて沈黙しながら…

しばらくしてコクンと頷きかえすと、突然わたしの肩にマキちゃんの手がポンと触れて、顔をあげる。


「頑張りなよ知鶴。知鶴が泳げるよう、あたし…応援してるからさ」

「!」

「知鶴があたしに悩みを打ち明けてくれたの、初めてだよね。まぁあたしがいっつも自分の話ばっかしてるのもあるんだけど。それでも知鶴は元々あんまり積極的に自分のこと話す方じゃなかったし。だから、よっぽどの事なんだと思う」


そう言って、マキちゃんはわたしの肩をもう一度叩いてくれた。


その言葉に、わたしは驚きを隠せずにいたけれど、

すぐに視界がじんわり滲んで見えなくなる。


「もちろん瀬戸くんの事もね」

「!」

「泳げるようになったら言うんでしょ?瀬戸くんに、愛の告白ってやつ」

「ど、どうしてそれを…」

「分かるよ。知鶴の考えてることくらい。何年親友やってると思ってんの?」

「……」

「二年も片想いしてきたんだからさ、恋も水泳も後悔しないように最後まで頑張りなよね」

「ありがとうマキちゃん」


わたしは涙で潤んだ目をゴシゴシと拭うと、さっきよりも大きく頷き返した。

それを見て、マキちゃんが満足そうに笑う。

それだけで、過去のトラウマも乗り越えられる気がした。


…ありがとうマキちゃん。

わたし、がんばる。

もう、少しのことで、弱音なんてはいたりしないよう、頑張るから……。
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