水泳のお時間
「いつまでもそこにいたら、身体冷えるよ」


あまりのショックに言葉を失っていると、

とつぜん瀬戸くんがわたしの横を通りすぎ、プールからあがった。


そしてそのまま何も言わずプールサイドを出て行ってしまおうとする瀬戸くんに、

わたしは急いで立ち上がり、叫ぶ。


「瀬戸くん、待って…っ!」


わたしの声に、瀬戸くんが動かしていた足を止める。


だけどこうしている今も、その細くて高い背中をわたしに向けたまま、少しもこっちを振り返ってはくれなくて。


いつも優しい眼差しを向けてくれていたはずの、まだ近くにいるはずの瀬戸くんが、

さっきよりももっと白く霞んで…見えなくなった。


「わ、わたしが先生に話す、から…」

「……」

「来週もまたここで練習できるよう、お願いしてみるから…っ」


だから、行かないで。

まだまだ瀬戸くんに教わりたいこと、いっぱいある…。


これで最後だなんて、言わないで…!


「お願い……」


わがままを言っているのは、分かってる。

自分でもムリなことを言っているって、分かっていたけれど…。


でもわたしは、まだ最後まで泳ぎきれてない。

告白だって、まだ…言えていない。伝えられていないのに。


あと少し、あともう一歩で夢だって叶うのに…

今日で最後なんてイヤ…イヤだよ…!!


「うっうっ…」

「……」


こらえきれず、わたしの目からとうとう涙が溢れ落ちて、

乾いていたプールサイドを濡らした。


そのまま一人泣き出してしまったわたしに、今まで黙っていた瀬戸くんが口を開いた。
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