水泳のお時間
「…信じらんない。まさか授業ない日までわざわざ学校来て水泳の練習してたわけ?」

「……」

「ふつーそこまでする?それともそこまでして瀬戸くんに気に入られたいとか?」


呆れたようにも、けなしているようにも見て取れるその言葉に、わたしは何も言えない。


気まずくて顔を俯かせていると


それでもわたしの近くに、瀬戸くんがどこにもいない事に気がついたのか、

しばらくして目の前の女の子はどこか目の色を変えたようにこっちを見た。


「瀬戸くんは?いないの?」

「あ、えっと。うん…」

「まさか一人で練習してたわけ?」

「え?あ…う、うん…」


でも全然、泳げなかったけど…

瀬戸くんが見ていてくれないと、何も出来ない。


わたし一人じゃ、結局どうすればいいのかも分からない…。


「……」


とっさに今日の練習を思い出し、黙っていると、

女の子はしばらくの間、何かを考えるようにわたしをジッと見ていたかと思うと、ポツリと口を開いた。


「ぶっちゃけさ、桐谷さんって、いつも声小さいし、やたらオドオドしてるし、目立たない印象しかないから、見ててすごいイラつくんだよね。そのくせあの瀬戸くんにはやたら気に入られてるみたいだし、その理由が未だにあたしには全然わかんないし、納得もしてない」

「……っ」

「でも、勝手な憶測だけで最低呼ばわりしたことは、悪かったと思ってる」

「……え?」


女の子はそれだけ言うと、突然雨の中を走り出していってしまった。


そのまま後ろを振り返ることなく雨の中を足早に走っていくその後ろ姿に、

残されてしまったわたしは、一瞬何のことを言われたのか、すぐに分からなくて。


しばらくのあいだ戸惑っていると、突然後ろから声がした。


「一応、“ごめん”って謝ってるって事なんじゃねーの?」
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