水泳のお時間
「冗談だよ」


そのとき。

上から瀬戸くんの笑う声が聞こえたかと思うと

瀬戸くんの手がわたしからスッと離れた気がした。


その言葉にわたしはつぶっていた目を開け、ポカンと瀬戸くんを見上げる。


じょ、じょうだん…?


「時間ないし練習始めよう」


すっかり固まってしまった私をしりめに

瀬戸くんはさっきの出来事がまるでウソみたいに平静と背を向けた。


それを見たわたしは何だか拍子抜けしながらも、とっさに首の後ろに手を当ててみる。


するとビキニのヒモは結び目がほとんど緩められていて、今にもほどけそうになっていた。


焦ったわたしは慌ててビキニのヒモを結び直す。


「桐谷。何してるの?練習始めるよ」

「え?あ、は、はいっ」


瀬戸くんに呼ばれてしまい、わたしは急いでヒモを結び終えると瀬戸くんの元へと駆け出す。


そんなわたしに、瀬戸くんはただ目を細めて微笑んでいた。


…ほんとに、冗談だったのかな…?
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