水泳のお時間
結局、瀬戸くんがふいにわたしを抱きしめてくれた理由も、瀬戸くんがどこまで本気で…


そしてどこまで冗談だったのかも分からぬまま、いつもの水泳指導を受けることになった。


「バタ足はだいぶ上達したし、今日は手の動作を練習しようか」


瀬戸くんはそう言って、いつものビート板を倉庫から持ってきたはいいけれど

それは結局使わないのかプール台の上に置いてしまった。


その様子をわたしはただ、ポカンとした顔で見つめる。


「手…?」

「うん。立ったままでいいからクロールする時みたいに腕を動かしてみて」


瀬戸くんはそう言うと、動きを監査するように腕を組みながらわたしをジッと見つめてきた。

その視線にわたしは思わず上がってしまいながらも

瀬戸くんに言われた通りおそるおそる水中で腕をかいてみる。


こ、これでいいのかな…?


とりあえず自分が普段しているクロールを思い出しながら腕を動かしていると

早速瀬戸くんからいつものお叱りをもらってしまった。


「桐谷…それ、本気でやってる?水車回してんじゃないんだから」

「えっっ?…あっ…う……」

「仕方ないな桐谷は。ほら、俺がちゃんと教えてあげるから…ちゃんと見てて?」


瀬戸くんはまるで子供をあやすみたいに言うと、わたしの背後に移動し、後ろから重なるようにわたしの手首に優しく触れた。


その瞬間、わたしの肩がビクンと震える。
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