水泳のお時間
瀬戸くんは後ろからわたしの腕をつかんだかと思うと

それを水中から水面へ…ゆっくりと動かし始めた。


「水をかくときは徐々に肘を90度にするよう意識して…そう。水面から出るときは肘から抜くようにね」

「……」

「桐谷、聞いてる?」

「あっ、はっはいっ…」


瀬戸くんに言われて、わたしはハッとする。


わたしの気持ちを知ってか知らずか

瀬戸くんはいつもの淡々とした表情で、わたしの腕をゆっくり動かしながら指導を続ける。


だけどそのたびに耳元から瀬戸くんの甘い吐息を感じて

瀬戸くんの体温が全身に伝わってきて…


わたしの思考は今にもパンクしそうだった。


「桐谷、なんだかやけに顔が赤いね。熱でもあるの?」

「だ、だいじょうぶですっ…」


正直言うと、ほんとうは瀬戸くんの言葉さえ耳に入らなくて、体中が熱で溶かされてしまいそうで。


立っているだけでやっとだった。


だけどそんなわたしの気持ちを見透かすように、瀬戸くんは更にこっちをジッと見つめてくる。


…どうしよう。心臓がドキドキ言って止まらない。

だってあの瀬戸くんにこんな密着した体勢で後ろから優しく指導されてしまったら

緊張して練習どころじゃないよ…っ
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