水泳のお時間
すっかり体がガチガチになってしまったまま

遅れてしまわぬよう、瀬戸くんの隣を必死で付いて歩いていると


向こうの方からちょうどわたし達と同世代くらいのカップルが歩いてくる姿が目に入った。


そしてそのカップルはそのままわたしたちの横をすれ違い、わたしはふいにその二人を目で追ってしまう。


「……」


…その男女は特に何か特別な言葉を交わしていたわけではなかったけれど


ただひたすら肩を寄せ合いながら優しく手を握り合って歩く姿は


言葉がなくても心はちゃんと通じあっている。まるでそんな関係に見えた。


いつもそんな風に街中を歩くカップルとすれ違っては、振り返って密かに羨むことしか出来なかったわたし。


だけど…今日はそんないつもの日常と少しだけ違う。


「どうした?」


さっきまで歩いていた足を止めてしまい、瀬戸くんに顔をのぞきこまれてしまった。

ハッとしたわたしは慌ててよそ見をしていた顔を戻すと、フルフルと首を横にふる。


「う、ううん。何でもない…っ」


そう言って、フイと下を向いてしまったわたしに、瀬戸くんは「そう?」と言って、顔を傾けていた。


そして再び歩き出しながら、肩に感じるその温かな重みに、わたしは胸が熱くなる。


…すれ違う人たちからすれば、今のわたしと瀬戸くんてやっぱり…その

こ、恋人同士みたいに見えたりするのかな…?


例えそれが一生手の届くことのない叶わぬ願いだとしても


今この瞬間だけは、いずれ覚めてしまう、まるで夢のようなこの時間を感じていたい…。
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