甘い言葉で


ドキドキしながら下げていた頭をあげてぶつかったであろう『柚希くん』というお兄さんの顔を見る。
だってね、もう一度謝ろうと思って。
声だけを聞くと近くにいたお姉さまの声が怖いんだもの!
そんなに大事直人ですか?って聞きたくなるくらい。
謝りついでにお兄さんの顔拝見させていただきます!


「あの、ほん......「君、あゆみちゃん?」


だけど、その人はあたしの言葉に被せるように名前を確認してきた。
お?何故に?


「え?」


なんで知ってるんですか?自己紹介まだしておりませんけど?


「ほら、急がないと。お友だち二人が待ってるよ?」


その人が指を差す先にはサチと美幸がバスに乗り込むところだった。


「あゆみ~早く来ないと補助席に座らせるよ~!」


「え?ちょっと待ってよ!」


あたしも荷物を担ぎ直してぶつかってしまった人に謝罪をしなおす。


「えっと、ぶつかってすみません。以後気を付けます!では、お先に」


「はい、ご丁寧にどうも。またあとでね」


二人に置いていかれたのと恥ずかしいのもあって逃げるようにバスに乗り込んだ。


車内に乗り込み通路を歩きながら拝見したお顔を思い出す。
うん。確かにカッコ良いね、あのお兄さん。お姉さま達が群がるのもわからなくはないな。


「あゆみ、タローちゃんとぶつかったの」


座席に座って一息ついたところでサチが聞いてきた。


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