甘い言葉で


「何、愛想振り撒いてんだよ」


俺が肘打ちしてもタローはおどけるだけで。


「俺、今フリーだもんね。夏のひととき、楽しみたいじゃん?」


今年のターゲットでも見つけたのか?


「俺を巻き込むなよ?」


「巻き込むつもりはないけど、巻き込まれるよな、ユズは」


語尾の俺の名前だけ強調しやがった。
これじゃあ、今年も収穫なしかな。
俺だって楽しい思い出がほしいんだよ。
毎年タローの世話ばかりで、残りの夏は良いこと無しだよ。


「じゃあ、そういうことだ。今言ったことはしおりにも書いてあるがな。各自確認しておけよ。チビ達が楽しい時間を過ごせるかはお前達の協力次第だからな!」


そう言いながら塾長はバスに乗り込んでいく。みんなも順についていく。


「タローちゃん!」


バスの中からタローを呼ぶ声がして俺も見上げる。


「お、サチか?」


ん?あの子、タローんちの近所でよく見かける子だな。


「今年は宜しくね。楽しみにしてるよ!」


「おう!任しときな!」


タローとサチっていう子のやり取りを聞きながら、ひとつ前のガラス窓を見るとさっきぶつかった子がいた。


「タローちゃん!私の友達のあゆみと美幸だよ!宜しくね」


タローも愛想よくてを振ってる。
サチは元気な子だな。
だけど、俺はやっぱりぶつかったあの子が気になる。あゆみって言ってたよな。


「どっかで会ったことがある感じ......なんだけどな.........まぁ、いつか思い出すだろう。あゆみちゃんね、覚えました」


「ユズ、やっぱりお前、さっきの子が気になってんだろう?」


「うるせーよ!ほら、早く乗れよみんな待ってんだぞ?」


「ハイハイ。今年のユズは幸せになるといいですね~」


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