あの男
追憶
クリスマスイブ――。


私は落ち着いた雰囲気のバーで、男を待っていた。

男――彼氏、だ。



ゆらゆらと、カクテルを揺らす。

どうやら仕事で少し遅れるらしいと、さっき連絡がきた。



忘年会があるとかで、ちょっと顔を出さなきゃいけないらしい。






ゆらゆら揺れるカクテル。

ゆらゆら揺れる、カクテルに映る私。



ふっ、と。

バーに流れる音楽が変わった。



甘い男の歌声。

古いジャズだ。ちょうど私が中学生の時に流行った――





不意に。

私の脳裏にある男の顔が浮かんだ。


こけた頬、だらしなく生えた無精ひげ、憂いを帯びた瞳・・・。




『大丈夫――きっとなにもかもよくなる』





あぁ。

思わずため息のような吐息が漏れた。


あぁ、あぁ、あぁ。

あの男だ。



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