あの男
狂ったように踊り続ける人々。

鼓膜を震わす甘い男の歌声。

薄暗いディスコ。


ぽつねんと佇む、15歳の私――。





「アンタ、踊らないの?」


虚ろな瞳の、病的に痩せた女が聞いた。

20代後半ぐらいの、根元の方が黒い痛んだ長い金髪の女。


あたしは黙って首を振る。

女は大して興味はなさそうに「そう」と呟くと、人々の中へつっこんでいった。



無秩序に踊り狂う男、女、男・・・。

何かを忘れるかのように、何かから逃げるかのように、メチャクチャに必死に踊り狂う。


奇妙な光を瞳に宿し、頬を上気させ、息を荒げて。

音楽に合わせて、時々奇声をあげたりして。




ちびり。

舐めたビールは苦かった。しかもぬるい。





――あたしは、何をしているんだろう。

何でこんなところでボーっとしているんだろう・・・。




「不味いだろ、それ」


不意にすぐ近くから声をかけられた。



右隣を見れば、1人の男がいた。





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