あの男
こけた頬、だらしなく生えた無精ひげ、憂いを帯びた瞳・・・。

かけられた声は低くて、気だるげな響きだった。



黙っているあたしを、男はちらりと見た後、踊り狂う人々へ視線を移した。


「寒いだろ」




ドキリ、とした。


人々の熱気で、冬だというのにむんむんする部屋では、あまりに不釣合いな言葉。

だけど、あたしの胸のうちを言い表すには、ひどくまっとうな言葉。



寒い。

身体ではなく、身体の中のどこかが。


人はそれを心だと言うかもしれない。

けど、違うと思う。たぶん、違う。




心は寒くなんてない。

何も感じない、鉛のようになってしまっているから。


心ではなくて、身体の中にある――どこか、何か。


分からないけど、とても寒い。

寒くて寒くて・・・凍えてしまいそうなほどに。





「踊るか?」


差し伸べられた手を、ぼんやり見つめた。

男はあたしの返事を待たずに、強引に手を取り、踊り狂う人々のもとへつっこんでいく。



「踊れば、今よりは寒くなくなる」

独り言のように、男は呟いた。



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