あの男
I love you. So, please your love...


甘い男の歌声は、異国の言葉で愛を囁く。

乞うような声を引き裂くのは、狂った奇声。



踊る、踊る。メチャクチャに。考えなしに。

リズムもステップも無視して。


男のごつごつした手から、温もりと汗を感じながら。

不思議と、汗ばんだ手を気持ち悪いとは思わなかった。


なぜかは分からないけれど、繋がった2つの手がひどく愛おしく感じられた。



薄暗いディスコ。

踊る狂うあたしと正体不明の男――。




「もっと温かくなりたい?」


耳元で囁かれた言葉に、あたしは頷いた。

背の高い、ひょろりとした男を見上げて小さな声で言う。



「お願い。温かくして・・・」





男が頷く。

そっと踊り狂う人々の中から抜け出した。



手を繋いだまま、ディスコを出て、あたしと男はホテルに向かった。

小さな古びた、ラブホテル。



あたしは驚かなかった。

怖いとも思わなかった。


不思議と納得した。

あぁそうだ、こうすれば温かくなる・・・。




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