あの男
男は、やはり痩せていた。

荒れた肌。

無骨な指が、あたしの身体をまさぐる。



「後悔しないか?」


その問いかけに、頷いた。

しない。後悔なんてしない。



痛くて、辛くて、気持ちよくて、くらくら、した。

初めての体験に、身体が、悲鳴をあげて。



思わずこぼれた涙は、次々溢れた。






「うあぁぁあ、あああああ」


声をあげて、力いっぱい泣くあたしの頭を、男は撫でた。



無骨な指は、何か大切なモノに触れるかのように、あたしの身体に触れた。

優しい、優しい指。





「大丈夫――きっとなにもかもよくなる」



意識を失う寸前、柔らかな低い声がそう言うのを、聞いた。








――――翌朝、目が覚めた時、男はいなくなっていた。


ホテル代と、男がつけていた腕時計だけが残っていた。


腕時計は、男があたしにくれると言っていたのだ。




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