愛してると囁いて【短編】
「も、もう一回〜?!」


「おうっ、もう一回」


「―――もうっ!!」



観念した歌音は覚悟を決めたように俺の服を両手で掴んだ。

力が入り具合で緊張しているのが嫌でもわかる。



そして、またあのわざとでない上目使いで見上げてくる。

俺を誘ってんだろうか。



何故かこっちも緊張してきた。

心臓の音が聞こえていないことを祈る。



「かつ君…」



しっとりとした歌音の声が熱を持って、俺へ伝わる。



「かつ君愛してるよ…」



いつものふざけた感じではない。真っ直ぐな俺達の視線が交わった瞬間だった。

胸か胃のあたりがなんだかぎゅうっとなって、でも嫌じゃない痛みをまた感じた。














「なあ歌音、キスしていいか…?」


「は、はぃぃいいっ?」



信じられないと言うように目を見開く、と同時に掴んでいた俺の服を離し、後ろへバックステップする歌音。


俺はお構いなしで歌音にじりじりと近づいた。



「い、いやいや待って!あたし!次あたしの番でしょ!!クイズ出すの次はあたしぃぃ!!」



自分の唇を奪われないようにと、必死に口を抑える。

この様子だとファーストキスもまだらしい。ちっ。



「はいはい、わかったよ。で?歌音はなんの問題だすんだよ」



ファーストキスを奪うまで悪人にはなれないので断念して、仕方がないから歌音の話にのってやった。

安心してホッと息をつく歌音。


その少し隣にムッとする俺がいる。



「じゃあ問題はね〜」


「うん」



ちらっと俺を横目で見てきた。

少し恥ずかしそうに頬を染める。


うん、チューしたい。

男って野性動物なんだな。とつくづく実感する。

なのに……理性を保つのは大分大変なんだぞ?そんなことも知らずにそんな目で見やがって…バカ歌音めアホ歌音め。



「早く言えよ、日が暮れるだろ」 



このままだと冗談でなく本当に歌音を襲ってしまいそうなので、あの瞳から180度視線をそらした。

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