愛してると囁いて【短編】
無意識に怪しい笑みを浮かべて、俺は勢いよく背中から抱き着いた。



「――…かのーんちゃんっ!」


「――わぁっ!!」



おいおい、もっと女っぽく「きゃっ」とか「やん」とかいう声は上げられねぇのか。

しかしこいつ身長のわりに細くて、柔らかい…フニフニする〜…て、俺は変態か?!



「か、かつ君か…!びっくりした〜ぁ…」



余程びっくりしたのか数枚楽譜を落としてる。

プッ、馬鹿なやつめ!!


ちなみにかつ君っつーのは俺がこいつに呼ばせてるニックネーム。


実原君とか、勝彦君、ってまるで赤の他人みたいだろ?

俺は女の子とは誰でもカレでも仲良くしたいわけさ。

ニックネームはその基本だ。



「歌音は何してんだ〜?こんな裏庭で」



ここは告白には打ってつけの裏庭。


だから、俺はよくここにいる。つーか、呼び出される。

だからここは俺の場所って言われるくらい有名なんだけれども…


…おっと、話がそれたな。



「あたしは大松先生が楽譜コピーしてこいって…」


「げっ!大松?!」



大松とは……吹奏楽部の顧問で、音楽の先生のわりには、ぽっちゃりしてて、冬なのに汗臭くて、短気で………


とにかく俺の嫌いなタイプにジャストフィットした先生だ。



「しかも、職員室はあっちだぜ?全くの逆方向じゃん」


「あれ…?職員室って裏庭の近くじゃなかったっけ…?」


「いや、中庭の近く」


「あ、あれ……?」



そういえば、こいつ…極度の方向オンチだった…。

ちなみに、運動オンチでもある。


オンチの二乗のくせに音感だけはめちゃくちゃいい。

歌も上手いし。

変わった奴だよな。




「じゃ、俺もそろそろ戻るところだから一緒に行こうぜ。てか、おまえもう2月なのにまだ場所覚えてないのかよ…」



歌音の天然っぷりには笑ってしまう。

だってもう2月だぜ?


職員室の場所なんてチンパンジーでもすぐ覚えられるわ。



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