愛してると囁いて【短編】
もやもや
「…………かつ君…?」



時間も忘れて粘って座り込んでいると、頭上からふんわりとしたとろい声がした。



「こんな所で座り込んでどうしたの?下痢?」



ふんわりとした暖かい声質で、なんとも下品な言葉を躊躇なく使う女は彼女しかいない…



「…げ、下痢じゃねぇよ…」



気まずそうに顔を引き攣らせて顔を上げた。

そこにはやっぱり、いつものように暢気な笑顔を浮かべたあいつがいた。



「あ、そうなの。ならよかった〜」



下品な言葉をほんの数秒前に使ったというのになんだこの輝かしい笑顔。

俺がかなり惨めに見えてくるじゃねーか。



「おまえは何?部活終わったの?」



不機嫌極まりない顔をしていても、天然馬鹿、歌音は気付かずにケロッとしていて無性にムカついた。



「うん!今日は先生の機嫌がよくてね、早く終われたんだよ」



そう言う歌音も機嫌がいいのか天使の微笑みに増してキラキラの光りが見えた。



「かつ君は誰か待ってるの?あ、もしかして彼女?」


「は?彼女なんていねぇよ。知ってんだろ、女避けしてんの」



唯一こいつだけには女避けの事を言っている。

こいつ馬鹿だし、まわりには言わない性格だからな。



「う〜ん…だってね、今日はなんだかカッポー率が高いんだよ。だからかつ君ももしかしたらカッポーになってるのかなぁ…て」



か、カッポー…?

なんだそれ。歌音語?



「……カップルのことか…?」


「うん!略してカッポー!かつ君も彼女いるなら帰るのかなぁっと…」



歌音は口元をほんの少し緩めて視線を地面へ落とした。

その姿が妙に寂しそうで…

どうしたんだろうか。



「………何暗い顔してんだよ」


「…暗くないし!……あたしの親友の美代ちゃんも彼氏と帰るから……なんか…寂しいんだぁ…」



なんだ、それでか。

つーか美代ちゃんって奴って、確かこの学校でも有名な派手なギャルだったような…そんな奴と友達なのか。



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