隣の女
とはいえ、朝子はそれをすぐに
その場でとがめることが
できるようなタイプではない。

そのまま、こみ上げる怒りを
抑えながら後を追った。

そんなことなどつゆ知らず
ハデージョは澄ましながら
駅の方面に向かっている。

電車で出かけると覚った朝子は、
やむを得ず後を追う事をやめた。

そして、自転車を押したまま、
ハデージョの後姿を見送ると、
さっきのアパートを
確かめにいくことにしたのだった。

そのアパートは、木造二階建ての
お世辞にもお洒落とは
言えない建物だった。

「こんな所に住んでどうして
 あんな格好で‥。もちろん、
 節約して洋服やカバンや靴に
 投資してるのだろうけど‥
 それにしても‥。」

そこへアパートから
一人の若い男が出てきた。

「住人かしら?」

朝子は興味深げに目で追っていると、
ふとその男と目が合った。

すると、その男はにこっと
なんとも言えない笑顔を
朝子に返してきたのである。

その余りに純真な笑顔に
びっくりして思わず朝子は
目をそらしてしまった。

そして驚いたことに今度は
話しかけてきた。

「こんにちわ。」

「あ、あ‥こ、こんにちわ。」











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