隣の女
ため息をつきながら、
席に戻るとせっかちな

社長がすでに待ち構えていた。

「ほら、朝子ちゃん、出かけるぞ!」

「あ、はい。」

そう言って、会社を出ると
社長が目の前の通りで
タクシーを拾った。

「銀座4丁目の交差点まで」

朝子の会社は、
人形町のはずれにある。

いつもなら、銀座辺りに行く時には
間違いなく地下鉄を使う社長が?!

タクシーに乗ってしばらくして、
朝子は思わず社長に聞いた。

「今日は、そんなに大切な
 お客さんなんですか?」

「う~ん。紹介してくれたのは
 うちの大事なお客さんなんだけど、
 よくわからんのよ。」

「よくわからん?のですか?」

「うん、フードコンサルタントだか
 フードコーヂネーターだかって
 カタカナでよぉ。」

根っからの江戸っ子である社長は、
気は短いが優しい気取らない
55歳のおじさんである。

初めての新卒社員ということで、
社長夫妻は朝子を娘のように
可愛がってくれた。

そのため、朝子も17年も
働いてこられたのである。

確かに給料は安いが社長夫妻や
会社にはとても感謝しているし
恩義を感じていた。

「あぁ、なるほどぉ。」

「朝子ちゃんなら、知ってるだろ?」

テレビや雑誌で話題になっている事や
カタカナの出る話になると、
社長はいつも朝子を当てにする。

朝子は、すでに37歳なのだが
この会社ではいつまでも

「ヤング」

なのである。


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