隣の女
「あ、あ、あ、あ‥」

しかし、男は気付いていない様子だった。

「どうかしました?」

我に返った朝子は、

「い、いえ。私は今日初めてで。

 皆さんはキッチンにいらっしゃいます。」

「あ、そう。初めてなんですか?」

「え、えぇ。」

「ここは、どうして知ったんですか?」

「あ、いえ、ハデ‥いや、速水さんと

 仕事で知り合いまして、それで

 お誘いを‥」

「仕事で?」

一瞬、その男の目が光った気がした。

‥が、次の瞬間、くったくのない

笑顔で

「へぇ~。そうですか。」

そう言うと、朝子の隣にピッタリ寄り添って腰をかけたのだった。

ギョッとした朝子は思わず

席を離れて

「あ、私も何かお手伝いを‥」

すると

「初めてなんでしょ?

 いいんですよ。準備がすむと

 向こうから呼びにくるから。」

そう言って、にやりと笑った。
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