隣の女
ハデージョは、食材の特徴や現地での体験をはまじえながら流暢に説明をしている。アシスタントが適当に役割をみんなに配分して、それぞれが分かれて、材料を切ったり、茹でたり、焼いたり協力して一時間ほどでできあがった。

もちろん、それなりに楽しいが、元々料理好きの朝子にとっては、正直なところ、目新しい収穫は特になかった。

食べ歩きも好きなので、ベトナムにはまだ一度も行ったことはないが「ベトナムレストラン」には結構足を運んでいる。
本場の味は知らないが、それでも、このメニューが『素晴らしい!』『また、習ってみたい!』と思えるほどのものではなかった。

しかし、ハデージョとそのアシスタントはかなり自分達の味付けに自信がおありのようだった。

朝子は、もちろんまずくはないけれども、期待したほどでもないことに幾分がっかりしながら、できあがった料理を他の生徒達と食べていた。

その様子に気付いたのかどうかわからないが、ハデージョが再び説明を始めた。

『いつも申し上げていますが、私は食材や調味料にはことのほか気を配っています。というのも、口に入るものは安全でなければいけないからです。ですから、ヴェトナムで仕入れてきたライスペーパーやニョクナムも現地で厳選してきたものです。よろしければ若干まだございますので、皆様にも特別にお分けいたしますので。それと、お野菜は提携農家の有機野菜、フォーに使いました鶏がらや牛肉も国内の安全な物です。』

そうどこか誇らしげに話すハデージョに、朝子は少し違和感を覚えていた。

「提携農家って‥宅配の有機野菜かなんかでしょうよ‥大げさな‥」



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