隣の女
当初はその場所と雰囲気に圧倒されていた朝子だったが、段々興ざめしてきた。

その場にいる生徒達を、よくよく見回した。

確かにお嬢様なんだろうけど、あんまり人の事を疑ったりできない世間知らずの娘さんと旧娘さんの集団なんでない?

隣のオートクチュールお嬢様も、「家事手伝い」らしい。でも‥「年は既に30歳過ぎてるだろ?」その隣のお嬢様、一応OLらしいが‥「たぶん、親の知り合いの会社とかだね‥。」

ただ、話していて朝子はある事に気付いた。

朝子以外は、顔見知りで何度もあっている風なのだが、とてもお互いよそよそしい。

‥というか、話が回りくどい。

隣の二人の会話とくれば‥

「今日のフォーは、この間お友達と行ったレストランで頂いたものと随分違うような気がするの。」

「そう?どんな風に?」

「う~ん、そうねぇ。どういえば言いかしら、頂いた後にお口の中に変なお味が残らないっていうのかしら‥ごめんなさい。私、説明があんまり上手じゃないから、ヤスコさんはどんな風にお感じになる?」

「私も、以前に家族とヴェトナムレストランに行ったことがあるのだけれど‥その頃は香菜やミントといった香の強いハーブが苦手だったものだからよくわからなくて。でも、その後に従姉がお仕事でヴェトナムに行くことになって遊びに行って大ファンになったのね。その時のお味は、そう、よう子さんのおっしゃるような感じだったわ‥」

朝子は、聞きながらかなりイライラしていた。

『なんじゃい?このもったいぶった会話は‥ひやぁ~やはり住む世界が違うのねぇ。だめだこりゃ。』

そこにハデージョが現れた。

「朝子さん、今日のクラスはどうでした?」

自信満々なその素振りに、『いやぁ~まぁ~そこそこですねぇ。』なんて言ってやりたい気持ちではあったのだが、そこが朝子の気の弱い‥優しいところで、ついつい

「私、ベトナム料理は結構好きなので楽しかったですよ。」

楽しくはなかったのだから、うそではないが‥まぁ、社交辞令である。

それが‥

「あら♪ よかったわぁ~これは、本場の先生に習ってきたのですけど‥」

ハデージョはまた、ヴェトナムでのエピソードを楽しげに話し始めた。





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