重ねた嘘、募る思い

「あの時、本当は声をかけたかった。だけど涙を浮かべているのんちゃんを見て言葉が出なかった。そっとしておいた方が親切なんじゃないかと思ってしまったんだ。よく考えたら『大丈夫?』の一言くらいかけてもよかったんじゃないかと思って、すごく後悔した。声をかけるきっかけを自ら逃したって、ごめんね」

 謝られることじゃない。むしろこっちがって思うのに。
 ふたりであたふたしていると、真麻が冷ややかな目でわたし達に視線を落としていた。テーブルに肘をついてさも興味なさそうな表情で。しかも早く話を進めろと言わんばかりに指でリズムを取るようにテーブルを叩いている。
 それに気づいた陽さんが気を取り直して再びわたしのほうを向き、わざとらしく一度だけゴホンと咳込んだ。
 
「あの事故の翌日、のんちゃんが人事課であのテーマパークのイブチケット買ってたのを配達がてら見てたんだ。で、行くことも知ってた。だから今度こそ声をかけるチャンスを逃したくなくて僕も行った。フラれてひとりだって言ったのは嘘。ごめんなさい」

 おもむろに土下座する陽さんを見て、言葉を失ってしまった。
 わたしが行くことを知ってて、わざわざ来てくれた。わたしと話がしたいがために。そう考えただけで顔が熱くなる。よろこびがダダ漏れしているかもしれない。

「それってさあ、ちょっと間違えたらストーカーだよ」

 かかっと声を上げて笑う真麻を、陽さんがキッと睨みつけた。

「真麻ちゃんは僕のフォローをしてくれるんじゃないの? 思いきり足引っ張ってるけど」
「だって、前にもその話聞いたけどさー聞けば聞くほど、まあいいか。続けて」

 笑いを堪える真麻を見て、何もかも知っていたんだってことにようやく気づかされた。
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