重ねた嘘、募る思い

 しばらくして花音がその意中の男子といい感じになっているところを見かけた。
 ふたりで裏庭の方に向かっていく姿や階段の踊り場で目立たないようこそこそ話しているところも。
 これはいい光景だと思ったのに、なぜか花音の表情は暗かったのが気になった。
 しばらくして花音がその男子と話さなくなったのを見て、別れたんだと知った。
 聞けば花音は誤魔化すように笑う。だけどその笑顔が悲しそうで無理しているのが伝わってきて私まで寂しかった。

 そんな花音を人知れず見つめている視線に私は気がついた。
 花音と同じように休み時間は静かに本を読んだりして仲間の輪に入らない男子。

 醍醐一真。
 細くて背が高く、歩く時波打つように左右に揺れる上半身。
 凝視したことはないけれど、黒縁眼鏡の似合う無表情真面目系男子だと思う。
 医者の息子で秀才。成績は常にトップで将来は父親の経営する産婦人科医院の跡を継ぐと言われていた。
 クラスメイトの男子には産婦人科は刺激的なようで、よくからかわれているのを見た。
 女の下半身ばっかり見るエロドクターだとか幼稚な野次を聞こえよがしにぶつけられても醍醐くんはそれに反応せずに無視を決め込んでいる姿は正直かっこいいと思った。

 醍醐くんが花音を見る視線に気づかなかったら、私が彼の存在に気づくことはなかったかもしれない。

 花音と同じような黒縁眼鏡。
 花音を見る時だけ口元に柔らかい笑みを浮かべていた。

 そこから読み取れる感情はただひとつ。
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