重ねた嘘、募る思い
中学三年の夏。暑い日の放課後。
クーラーの効いた涼しい図書室、書架の影に佇んで本を選んでいる醍醐くんが勉強をしている花音の背中を見つめていた。
一見クールな彼のどこにこの熱い感情が隠されているのか、興味が沸いた。
「醍醐くんって、花音のこと好きなんでしょう?」
その背中に声をかけると、花音に向けるものとは真逆の恨みがかったような怖い視線が私に突き刺さる。
ばつが悪そうに歪められたその顔はすぐに背けられ、耳まで真っ赤に染まっているのに気づいた私はストレートにぶつけすぎたかなと少しだけ後悔していた。
否定もせず離れて行こうとする醍醐くんがなんだか可愛く感じてしまって、もう少し話してみたい心境になってしまった。
「大丈夫、誰にも言わないから」
ぴたっと醍醐くんの足が止まったと同時にこっちを振り返る。
すでにいつものポーカーフェイスに戻っていて、斜に構えた感じで私を凝視していた。
「言われて困ることなんかないけど」
「あ、そうなの?」
「別に……藤城さんの言うこと肯定してないし」
あ、私の苗字知ってたんだ。そのことに驚き。
せわしなく彷徨う視線は私を捉えない。
むしろ私の存在を逃がすように、見ないようにしているとしか思えなくて吹き出しそうになった。
醍醐くんの態度全てが肯定を表しているってこと、全然気づいていないのがかわいく思えてしまう。
ふいっと元行く方向に向き直って柳の木よろしく歩いていく醍醐くんともう少し話してみたいと思ってしまった私は、何も考えずに頭に浮かんだことを口にしてしまっていた。
「とりもってあげようか?」