重ねた嘘、募る思い
そんな醍醐くんを見て、私はうらやましいと感じていた。
醍醐くんだけじゃない、花音もうらやましかった。
私は好きな人がいなかった。こんな風に誰かを思って赤くなったりしたことがなかったから。
それだけで自分より優れているように思えた。
花音もそう。私なんかよりずっと立派な人間だと思うし、優しいし大好き。
私と違って花音は繊細で目立つのを嫌う。それを守るのは自分の役目だと思っていた。小さい頃からずっと。
その花音を好きになった人。
今、目の前にいて私に勉強を教えながらその頭には花音が住み着いている醍醐くん。
そう思ったらなんだか少しだけ息苦しい感覚がした。
花音を醍醐くんに取られるような気がしたのかもしれない。
ふたりの間を取り持つとか言っておきながら何もしない自分にその気持ちを疑っていないわけじゃなかった。
醍醐くんはなんで私に勉強を教え続けてくれるのだろう。
花音のことを教えるわけでもなく、質問責めにばかりしているのに。
そう思った時、私はすぐに気づいた。
これは私が花音へ余計なことを告げないための口止めだということに。
だから私が花音の話を振っても余計なことを答えないのだろう、と。
醍醐くんの心情に気づいた時、なんだか胸に風穴が開いたかのように寒々しくなった。