重ねた嘘、募る思い
花音のことを聞いても何も話さない醍醐くんだったけど『なぜ産婦人科医になりたいのか』という質問した時は未だかつてないくらい雄弁だった。
父親が産婦人科医なのもあるけど、生命の誕生を手伝うことができる唯一の職業であること。命を自身に宿せる女性を尊敬していると言っていた。醍醐くん自身も女性に産まれたかったとまで教えてくれた。
「女の人苦手なんだけど……」
恥ずかしそうにそう話す醍醐くんがきらきらして見えたのは気のせいなのかわからない。
だけど醍醐くんが信念を持って産婦人科医師を目指していること、だから周りからからかわれてもどうってことないと力説しながらわずかに口元に笑みを浮かべる姿がかっこよく見えてしまった。
夢があっていいな、新しい命を生み出すお手伝いをできるなんてすごい、頑張ってと伝えると照れくさそうにうなずいてくれたのが本当にうれしかったんだ。
時折眼鏡のブリッジを指でくいっとあげてズレを直す仕草も、図書館からの帰り道によく会う首輪のついた猫を無表情で撫でる姿もなぜか妙に印象に残った。
風に吹かれる柳の木ふうな歩き方は特徴的で、後ろ姿で醍醐くんだとすぐにわかるようになってしまっていた。